洋裁CAD >3次元服飾造形学 >三角原型

三角原型の紹介

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このページの内容を簡単に説明すると、人体を三角測量して地図を作るように型紙を描き、正確な服を作るというお話です。
三角原型とは、洋裁に使う原型型紙の製図方法の一つで、和洋女子大の山本高美先生の研究チームで開発したものです。
詳細は論文を読んでいただければよいのですが、ここではわかりやすく三角原型を説明してゆきます。
3D人体計測データを基にした適応的なゆとり量の個別型身頃原型の開発

原型型紙のしくみ

まず洋裁で使う 原型型紙の仕組みについてお話します。
原型型紙とは個人の体型にぴったり合った型紙のことで、これを縫い合わせて着ると、その人の体にぴったりフィットします。
原型型紙

この原型型紙を大きな紙の上に置き、原型型紙からゆとりをとった位置に線を引いて服の型紙を製図します。
原型型紙が体にぴったりなので、そこからのゆとり量で服を設計する方法です。
この製図方法の長所は原型を差し替えることで同じデザインの服を別の人に変形できることです。

洋裁の本にはこの原型を使った型紙図がよく載ってますが、この図示方法であれば着る人の体格に依存せず、同一の図でデザインを表現出来るため便利なのです。
原型型紙は多くの製図法があり、製図法によって描く手順が決められています
まず人体の定められた部位の寸法をメジャーで測ります。
この寸法を利用して決められた手順で線を引いていくと、原型型紙が出来上がります。
原型型紙

様々な製図法が存在していますが、いずれの製図法にも共通の欠点があります。
標準的な体格の人にはうまくフィットしますが、
標準外の体型の人にはフィットしない場合が多く、その場合は補正が必要になってしまうことです。
原型型紙 標準的な体格

原型型紙 肥満

原型型紙 猫背

三角原型はこの欠点をを克服することができました。
原型比較


既存の原型型紙との違い

原型型紙の製図方法には多くの種類がありますが、基本的に人体をメジャーを使って測定しパラメーターを取り出すことが共通しています。
メジャー

メジャーで得られるパラメーターは1次元の数値で、2点間(1週回って同じ点の場合もあり)の道のり長さを得ます。
道のりは曲がったり直線だったりしますがどれだけ曲がったかという情報は得られません。
メジャー

これに対し、三角原型は3つの点を直線で結んだ三角形をパラメーターとして用います。
メジャー

三角形は2次元なので、1次元よりも多くの情報を持つことができます。長さだけでなく角度や面積といった情報も持っているのです。
メジャー


次元の谷

次元の谷

人体を測って服を製図し、布を縫い合わせて服を作るまでの工程を次元数で見てみましょう。
人体は3次元
測定した寸法パラメーターは1次元
パラメーターを使って描いた型紙は2次元
2次元の布を縫い合わせた服は3次元です。
こうしてみるとパラメーターのところで1次元の谷が出来ていることががわかります。
次元の谷


情報の量は次元数が多いほど多くなります。
パラメーターが1次元だと、人体から型紙へ送る情報量が少ないこと意味します。
2次元パラメーターに差し替えると、人体からより多くの情報を型紙に渡せます。
次元の谷


2次元パラメーターを利用した例として、地図を考えてみましょう。
地図は型紙作りに少し似ています。
地球は山や谷があり、全体的に丸くなっている3次元の物体です。これを測って2次元の地図を作ります。
次元の谷

昔の地図は不正確なものでしたが、原因の一つは測定法にありました。
昔は歩いて街と街の距離を測りましたが、道の途中の山を越えたり川を迂回する必要があります。
道のりの距離は正確でも、どれだけ曲がったかという情報は、道のりには含まれていません。
どんなに正確に道のりを測れたとしても、道のり、つまり1次元パラメーターでは正確な地図は作れなかったのです。
次元の谷

地図が正確になったのは3角測量を導入したためです。
たくさんの基準点を定めて、それらの直線距離を測り、三角網を作ります。
この三角形から基準点間の位置関係を紙の上に乗せることで地図は正確になりました。
次元の谷

同様に、人体に基準点を設け三角形で包むことで正確な原型型紙を作ろうというのが三角原型の考え方です
次元の谷

従来の様々な原型型紙製図法とグループ分けしてみると、従来の製図法は「1次元パラメーター原型」と呼ぶグループに入ります。
三角原型はこれらとは異なる「2次元パラメーター原型」に分類されます。
次元の谷


三角原型の作り方

では、三角原型を作る手順を見てみましょう。
トルソーの作成、採寸、製図の順で作業します。

1トルソー作成
対象者を3Dスキャンして3Dデータを作ります。
スキャンデータを加工して、手足、頭を除き、左右対称の個人トルソーを作ります。
トルソーを作るには専用のアプリが必要ですが、このアプリはフリーソフトで公開しています。
トルソー


2採寸
トルソーに主要な基準点と基準線を設定します。
基準点と基準線を利用してゆとりを持たせるためにトルソーからオフセットした位置に原型用の基準点を設定します。
トルソー

基準点を結んで三角を作り、トルソーを覆います。
トルソー


3製図
3Dで作った三角形を平面上に並べます。
トルソー

外形を残して余分な線を消して完成です。
トルソー


3Dでの作業が複雑ですが、製図作業は三角形を並べるだけの比較的単純な作業になります
UV展開に似ていますが、UV展開だと三角形がゆがんでしまいます。
この手法では単純に三角形を並べ、出来た隙間をそのままダーツとして利用しています。
トルソーをローポリ化すれば良いように見えますが、基準点の位置が重要で、バストトップなどの頂点、ダーツの開始、終了位置を考えて基準点の位置を決めないと、実用的な形状にはなりません
また、原型用の基準点をトルソー表面から浮かせることで、人体の部位別に必要なゆとりを確保しています。

幾何学の断層

1次元パラメーターは持っている情報が少ないから、2次元パラメーターにしようとお話をしましたが、少ないならたくさん運べばいいじゃないかと考える方もいるでしょう。
軽トラでは少ししか荷物運べないなら、たくさんの軽トラを用意すれば運べるという考え方です。
つまり、メジャーで多くの箇所を測れば正確な服を作れるという考え方です。
これはやってみればわかりますが、たくさん測っても測定値同士が矛盾を起こしてしまい、結局どれかを選ぶというジレンマに陥ります。これは幾何学の違いに起因しています。
地球上に三角形を描きます。北極、赤道上に2点の頂点で線を引くと、このようになります。
角度を測ってみると...合計で270度になります。三角形の内角の和は必ず180°を習いましたが、何が間違っていますか?
180°になるのは平面上つまり2次元上で測った場合のみです。平面上で成立する幾何学はユークリッド幾何学ですね。
これに対し、曲面上での図形には非ユークリッド幾何学が成立します。
人体も曲面で出来ていますから、この上に引いた線は非ユークリッド幾何学に属します。
曲面である人体を測った長さを平面の紙上に当てはめることは、異なる幾何学間で長さをやり取りすることになります。
これでは矛盾が起きるのは当然です。
ではどうすればよいでしょうか?
曲面の人体を平面で覆い、人体をたくさんの平面の集まりとしてとらえれば、非ユークリッド幾何学を排除できます。
トルソー

結局のところ、同じ答えに戻ってきますね。

三角原型の性能

従来の原型型紙では、3Dの人体から取り出せる情報が少ないというお話はしました。
具体的には、角度情報が得られません。
文化式を例に挙げると、肩線の傾きは固定角度、ダーツの角度はバスト寸法から計算となっています。
これら傾きや計算式は、実測できない代わりに、標準的な体格の人に多い数値を統計的に求めて補完しています。
ですので、標準的な体格の人の原型型紙を作る場合は、従来の製図方法でも概ねフィットするものの、標準外の体格の場合は補正が必要になってしまいます。

三角原型では、角度も含め、必要なパラメーターはすべて人体3Dデータから得ています。ですので、どんな体格の人でも補正なしにフィットする範囲が増えると考えられます。

サンプル数は少ないですが、研究では10名ほどの原型型紙を実際に作り、良好な結果が得られました。
論文中ではバーチャルフィッティングを用いて定量的な評価もしています。詳しくは論文をご覧ください。
ここでは、文化式新原型と三角原型での差をいくつか提示します。下の図は肥満女性で比較したものです。
赤い線は布が引きつっている部位で、文化式のほうが多くなっています。
下の図は、頸が前方についている男性です。
文化式では上のあたりが強く引きつっていますね。
三角原型では、標準外の人でもフィットするのが特徴です。また、標準体型の人の場合では、従来の原型との差は小さくなる傾向があります。
原型比較


三角原型の長所と欠点、CADへの実装

三角原型製図法は、男女問わず多様な体型の人に対し、同一の手順を用いて正確な原型型紙を作ることができます。
標準的な体格の人では従来の手法と大きな差は出ないので、標準的な体格の人限定であればメリットはあまり出ません。
従来の手法とは異なり、人体をそのまま計測することは困難で、3Dスキャンしてデジタル化する必要があります。
これは欠点ではあるのですが、いったんデジタル化すればバーチャルフィッティングも出来るので有用でもあります。
原型型紙を制作するプログラムを単体で使うより、3DCADの機能の一つとして実装すれば利便性が増します。
そこで、3D計測機能を追加した新しい洋裁CADを開発しました。
このCADを使って製図すると、一度製図した型紙はトルソーを入れ替えることで自動的に変形してトルソーにフィットするようにできます。
新しい洋裁CADについては別のページで紹介する予定です。

将来的には、街の洋裁店で3Dスキャナーを置き、お客さんのトルソーを作ってバーチャルフィッテイングしながらデザインを選び、注文するといった新規ビジネスもできるようになるでしょう。

最終更新日: 2024-07-30 08:58:48

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